プレミアリーグは2024年3月18日、ノッティンガム・フォレストに対して勝ち点4はく奪の処分を科したと発表しました。
今シーズン、プレミアリーグで勝ち点をはく奪されたのはエバートンに続いてノッティンガム・フォレスト2チーム目ですが、マンチェスター・シティやチェルシー、レスターも違反しているとプレミアリーグは声明を出しているため、マンチェスター・シティとチェルシー、レスターに対しても何らかの発表があるはずです。
マンチェスター・シティとチェルシーに関しては別記事で状況をまとめていますので、気になる方はご覧ください。
なぜプレミアリーグで勝ち点はく奪が頻発しているのかというと、プレミアリーグ独自ルールである「収益性と持続可能性に関するプレミアリーグの規則(PSR)」に違反しているからです。
今回はPSRの内容を踏まえつつ、なぜエバートンとノッティンガム・フォレストが処罰された背景を解説し、マンチェスター・シティとチェルシーの未来について触れたいと思います。
収益性と持続可能性に関するプレミアリーグの規則(PSR)とは
「収益性と持続可能に関するプレミアリーグの規則(Profitability & Sustainability Rules:略称PSR)」とはイングランド独自の制度で、よく耳にするフィナンシャル・フェアプレー(FFP)は欧州サッカー連盟の制度であり、運営している団体が異なります。ただ、制度の目的は以下の通りで一緒です。
- クラブの健全な運営を義務づけ、財政破綻を未然に防ぐ
- 収益外の資金を用いた投資による戦力バランスの崩壊を防ぐ
目的は一緒なのですが、規則の詳細や適応範囲などはそれぞれ若干異なります。FFP(2011-12シーズンに施行)についてもう少し詳しく制度を説明すると、イングランドの各クラブは毎年「直近2シーズン分の財務諸表」と「現シーズンの収入および損失見込み」を所属リーグに提出する必要があります。
そしてプレミアリーグの場合、許容される損失は以下の通りです。
- 基本
500万ポンド×直近3シーズン=1500万ポンド - オーナーが投資して賄う場合
3500万ポンド×直近3シーズン=1億500万ポンド
ちなみにこの損失計算からはプレミアリーグが「フットボール界全体への貢献」としているスタジアムなどのインフラ関連の有形固定資産の減価償却費やコミュニティ・女子フットボール・アカデミー関連の費用は除外されているみたいです。
つらつらと書いてきましたが、とどのつまり、プレミアリーグの各クラブは3シーズンで1億500万ポンド以内の損失であればペナルティーを回避できるという訳です。1億500万ポンド、2024年3月30日時点で1ポンド=約190円なので、日本円にすると約200億!!
これだけの損失を認めてもらえれば結構うまく運営できる気がしますが、なぜエバートンやノッティンガム・フォレストが違反してしまったのかという点を解説していきたいと思います。
エバートンが違反した経緯
エバートンが限度額を突破した理由は運が悪かった…というのが個人的な感想です笑
エバートンは現在プレミアリーグの中堅クラブという位置付けですが、同じホームタウンクラブであるリヴァプールとはライバル関係にあり、両クラブの試合はマージーサイド(イングランドの北西部の州で、同州の西部に河口があるマージ川が由来)・ダービーと呼ばれ、世界的にも有名です。
そんなエバートンをマンチェスター・シティやリヴァプールといったクラブと同じクラブのメガクラブにしたいという野心をもった男、ファルハド・モシリ氏が2016年にオーナーになりました。
モシリ氏は自身の野心を実現するために「大幅な戦力強化」と「最新のスタジアム建設」という壮大な計画を推し進めました。選手獲得には17年~21年にかけてプレミアリーグ5番目となる3億5900万ポンドを費やし、選手の給与も倍増、監督交代もバンバン行いました。ハメス・ロドリゲスを獲得したり、アンチェロッティを招聘したり、勢いを私も感じておりました。
選手獲得だけでなく、老朽化が進んでいた4万人収容のホームスタジアム「グディソン・パーク」に代わる新スタジアムの計画も推進。建設に向けたグループ会社を立ち上げ、そこにモシリ氏や第三者の投資ファンドがローンを行う形で資金注入を開始。5万人が入れて飲食店や宿泊施設も併設した複合施設型拠点を構想しておりましたが、結果的にこれがプレミアリーグに目を付けられるきっかけになってしまいました。
なぜならこの建設費はPSRの除外要件として認めらないということになったからです。先ほども記載しましたが、PSRは通常であればスタジアムなどのインフラ関連費用は除外対象なのですが、この要件が認められるのは建設許可が下りてからと定められていたのです。結局このスタジアムの建設許可が得られたのは2021年2月だったので、その間の5400万は損失として計上するようにされたのですが、エバートンは猛抗議。結果としてこの建設費の免除は認められたものの、すべての選手契約にプレミアリーグの承認を得るプロセスを挟むことになりました。
建設費を免除されたのですが、お金は使えど順位は上がらずで収益は増えず、22年頭の段階で1億500万ポンドのリミットが見えてきたモシリ氏は、元上司のロシア人実業家のウスマノフ氏に助けを求め、まだできてもいないスタジアムのネーミングライツを1000万ポンド/年の20年契約を締結。これで助かったと思ったのですが、ここでロシアによるウクライナ侵攻が勃発…。結果としてウスマノフ氏の英国内における資産は凍結されてしまい、万事休す…。
エバートンは22年3月に「直近2シーズン分の財務諸表」と「現シーズンの収入および損失見込み」において、同期間内の合計損失をPSR範囲内である8710万ポンドと主張したものの、プレミアリーグが調べた結果、1億2080万ポンドということで、今回の勝ち点10はく奪(結果的に6になった)という処分になりました…。
しかも今回の勝ち点10はく奪のペナルティーは18-19、19-20と20-21の平均(原則、直近3シーズンが対象期間、コロナの影響で19-20と20-21を半分にして1シーズンとしてカウント)、21-22の3シーズンのペナルティーであり、22-23シーズンも違反している疑いがあるとプレミアリーグからエバートンは言われています。
エバートンは、19-20と20-21の平均(原則、直近3シーズンが対象期間、コロナの影響で19-20と20-21を半分にして1シーズンとしてカウント)、21-22シーズンはすでにペナルティー済みなので、22-23シーズンのみのペナルティーにしてほしいと主張すると予測されていますが、追加のペナルティーがどうなるかも要チェックです。
ロシアの侵攻さえなければ…と思わざる得ないかなーと思いつつ、お金を使ってもプレミアリーグで上位クラブになることは難しいということを痛感させられますね…。チャンピオンズリーグとかに出れていればそもそも耐えれていたかも…。
ノッティンガム・フォレストが違反した経緯
ノッティンガム・フォレストに関しては、選手売買の駆け引きのために期日を超過してしまったことが原因です。
ノッティンガム・フォレストはエバートンとは異なり、22-23シーズンで24年ぶりのプレミアリーグ復帰を果たした古豪でした。プレミアリーグ昇格初年にめちゃくちゃ張り切り、2億5000万ポンドを投じて選手の補強を行いました。
PSRは所属しているリーグによって損失の上限額が異なっており、ノッティンガム・フォレストが過去に所属していたチャンピオンシップ(プレミアリーグの2部)の3シーズンの損失上限額は3900万ポンド。ということでチャンピオンシップ時代の2年間の損失上限額の2600万ポンド+プレミアリーグの1シーズンの損失上限額の3500万ポンドの6100万ポンドが上限額になります。
しかし、プレミアリーグはノッティンガム・フォレストがこの6100万ポンドの上限を3450万ポンドを超過したとして、勝ち点4をはく奪する決定を下しました。ちなみにエバートンのはく奪勝ち点が2少ないのは委員会に誠意を持った説明をしたからとされているようです。
ただ、ノッティンガム・フォレストは当然ごねており、ブレナン・ジョンソンを22-23シーズンにスパーズに5500万ポンドで売却したのはPSRをリスペクトしたためだ!とか主張しているものの、取引は9月1日。ちなみにシーズン末日は6月30日で、この時にアトレティコ・マドリーから4700万ポンドのオファーがあったのに売らなかったのは、ノッティンガム・フォレストが悪いので、今回の決定が覆ることはなさそう。
ノッティンガム・フォレストは、売却時期を先延ばしにした理由としては、持続可能なクラブ運営をするために少しでも高く売ろうとした結果だ!とも主張しているみたいですが、そもそもチェルシーは22-23シーズンの6月30日に5名(クリバリー、コバチッチ、ロフタスチーク、メンディ、ハヴァーツ)をPSRに違反しないために売却してますので、ノッティンガム・フォレストの主張はアンフェアかなーと思いますね…。
シティとチェルシーの今後について
エバートンとノッティンガム・フォレストの違反について解説してきましたが、この2クラブとは比にならないレベルで違反しているとプレミアリーグから目を付けられているマンチェスター・シティとチェルシー…。
ちなみにPSRの違反は「minor(軽微)」、「significant(有意)」、「major(重大)」という3つのカテゴリーがあり、今回のエバートンとノッティンガム・フォレストの違反は真ん中のカテゴリーの「significant(有意)」とされています。
そしてエバートンによって「significant(有意)」の場合は、最低勝ち点3はく奪から、ノッティンガム・フォレストによって委員会に対してしっかり誠意をもった対応をすれば、はく奪勝ち点が減算されるという前例が作られました。PSRは損失範囲などのルールは定められていたものの、ペナルティーの内容は実際に定められていなかったため、今回の前例は今後のマンチェスター・シティやチェルシーにとっても大事になってきます。
ちなみにノッティンガム・フォレストのペナルティーに関する懲罰委員会のレポートで以下のような記載があります。
PSR違反が「軽微」である場合、減点が必要かどうか、適切かどうか、比例するかどうかは他の委員会が判断することになるが、違反が「重大」である場合、除名などの非常に厳しい制裁がより適切である場合もある。
https://resources.premierleague.com/premierleague/document/2024/03/18/6614f2f9-6138-4d13-81c9-671130427c1c/Final-Award-The-Premier-League-and-Nottingham-Forest-745330876.1-.pdf
マンチェスター・シティやチェルシーは「major(重大)」という判断を下される可能性がある中で、「除名」の可能性が示されたのは大きな意味があると思います。
近年のプレミアリーグを盛り上げてきたマンチェスター・シティとチェルシー。ルール違反によって強くなっていたとすれば、それは罰せられてしかるべきかと思いますが、この2チームがいなくなったプレミアリーグっていかがなもの?と単純にサッカー好きとしては思ってしまうので、難しい問題です…。
ただ罰金だけど金満クラブにとっては意味ないので、今後3シーズン勝ち点10はく奪とか、そういうレベル感のペナルティーにしてほしいなーと個人的には思っておりますが、プレミアリーグのペナルティーがどうなるか今後も岸田総理みたいに注視していきたいと思います!
わーわー言うとります!お時間です!さようなら!
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